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トランプ政権と日本の国防の基本姿勢(日本の息吹4月号より)

安全保障

トランプ政権と日本の国防の基本姿勢-(日本の息吹4月号より)

― 次第に全貌を現わしつつある米トランプ政権。安全保障、日米同盟についての取り組みはどうか。しかし、そもそもアメリカからいわれるまでもなく、外国の脅威から日本の国益を護るため、国防予算の倍増など我が国が生き残るための国力増強こそ急務なのである。 ―

軍事社会学者
北村 淳 きたむら じゅん

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東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、警視庁公安部等に勤務。ブリティッシュ・コロンビア大学でPh.D.(政治社会学博士)取得。現在、軍事コンサルタント(米シンクタンク)としてシアトル在住。著書に『米軍が見た自衛隊の実力』『写真で見るトモダチ作戦』『海兵隊とオスプレイ』『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』等がある。

*   *   *

■ トランプ政権の国防の基本方針

本稿執筆段階では、国防長官と安全保障問題担当大統領補佐官は決定しているものの、未だに海軍長官をはじめ国防総省の高官人事が落ち着いていない。当然のことながら、トランプ政権の安全保障戦略が具体的な形で打ち出されてはない。もっとも、トランプ政権に限らず大統領が交代した場合、新政権の安全保障戦略が明示されるには、その重大性ゆえに、ある程度の時間を要する。(トランプ政権でも2018年1月までに新戦略を練り直して発表されることになっている。)したがって、トランプ政権の具体的安全保障戦略に立脚して議論することは、現段階では、未だ時期尚早といわざるを得ない。ただし、大統領選挙期間中から就任後これまでのトランプ政権による安全保障関連人事の動向や、トランプ大統領はじめ安全保障関係者たちの言動などから、
(1)国防予算を大幅に増額し、アメリカ軍とりわけ海洋戦力を増強する。
(2)当面目に見える形でアメリカが軍事的に関与するのはIS撃滅作戦である。
(3)ロシアとの直接対峙は避け、NATO/EU諸国を前面に据えて対ロ牽制を実施する。
(4)覇権主義的海洋侵出の勢いが止まらない中国の勢いを牽制する。
という基本方針はほぼ確実と考えられる。

■ 米海軍増強の論理

これらのうち、日本の防衛そして日米同盟に直接関係するのは、中国の海洋侵出への対処である。オバマ政権は中国の海洋侵出政策に対して強硬な反対姿勢を示さなかったため、中国は南沙諸島に7つの人工島を建設してしまい、それらのうちの3カ所には本格的航空施設まで誕生させてしまうことになった。(中略)このような状況に対して、トランプ政権は中国の南シナ海全域にわたる完全なコントロールを阻止すべく軍事的な牽制を実施する姿勢を打ち出している。しかし、中国にとり南シナ海は「前庭」のような存在で広東省や海南島の数多くの航空基地や海軍施設から直接戦闘機、攻撃機、軍艦を繰り出すことができ、沿岸域に配備された多種多様の長射程ミサイルで迫り来るアメリカ軍艦や航空機を迎え撃つことができる。それに加えて西沙諸島や南沙諸島にも少なからぬ前方展開軍事基地を確保してしまった。一方のアメリカ軍は「フィリピンに多数の本格的軍事拠点を確保して、数百機の戦闘機や爆撃機、それに多数の軍艦を常駐させ、十万以上の陸海空海兵隊兵力を駐屯させる」といった状況にならない限り、空母艦隊を南シナ海に派遣して中国海洋戦力と対峙しなければならない。いくらアメリカ空母艦隊が遠征能力を誇っているとはいっても、空母艦隊は横須賀、ハワイ、そしてアメリカ西海岸から「中国の前庭」に長駆しなければならないため、距離の不利は圧倒的である。そのうえ、戦闘が予想される状況下で空母艦隊が出動するとなれば、戦闘攻撃機をはじめする70機以上の各種航空機を積載した原子力空母の他に攻撃原潜2隻、イージス巡洋艦2隻、イージス駆逐艦2〜3隻、戦闘補給給油艦1隻からなる戦時編制の空母打撃群を出動させなければならない。このような大艦隊は海に浮いているだけでも莫大な費用がかかる。それを少なくとも3セット以上は南シナ海に派遣することなど、とても現在のアメリカ軍にはできない相談である。ようするに、「第一次世界大戦後以来最小の規模まで落ち込んでしまった」と海軍関係者が嘆いているように戦力低下をきたしてしまった米海軍力を復活させない限り、とても「中国の庭」ともいえる中国沿海域で、中国海洋戦力の自由気ままな動きを封じ込めることなど、アメリカ海洋戦力(海軍と海兵隊それに空軍の一部)を持ってしてはできかねる、というのが現状なのだ。選挙期間中からこのようなアメリカ海洋戦力の現状をトランプ大統領にすり込んできた人々が、今やトランプ政権の安全保障政策の舵取りをしようとしている。ビジネスマンであるトランプ大統領自身も「海洋戦力の構築とはすなわち軍艦の建造を盛んになすことであり、軍艦の建造とは鉄鋼業から最先端技術まで幅広い分野での用が拡大することになる」という論理で、海洋戦力増強論者たちと利害が一致したのだ。したがって、国防予算を大幅に増額し、集中的に海洋戦力構築のために投入するというシナリオは確実に推進されていくのである。

以下は「日本の息吹4月号」につづく

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月刊「日本の息吹」は、「日本会議」が発行する機関誌です。誇りある国づくりをめざすオピニオン誌として、新しい視点で明日の日本の進路と、日本再発見を提言します。

目次

グラビア
●今月の言葉/今林賢郁
●フォトグラフ
●トランプ政権と付き合うにあたって必要な日本の国防の基本姿勢とは何か/北村淳
特集「慰安婦」歴史戦を戦い抜け!(その2)日本の子供たちを誰が守るのか?~“憎しみの工場”の最大の被害者は子供たちだ/山岡鉄秀朝日・グレンデール訴訟最終準備書面(後編)
●[連載]新教育基本法下の教育改革/村主真人
日本会議は結成20年を迎えます─誇りある国づくりめざして《20年の歩み①》日本会議の設立日本会議20年史年譜《前編》
●[書評]山村明義著『日本をダメにするリベラルの正体』
●[連載]憲法おしゃべりカフェ/愛知県
●糸魚川の大火災から学んだこと/白沢賢二
●「松柏学園・大志万学院訪日使節団」交流歓迎会
●[連載]コーシンの世相談義/髙信太郎
●息吹のひろば

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トピックス : トランプ

新春対談 ”トランプ・ショック”と日本の覚悟 (田久保忠衛日本会議会長×古森義久氏)

外交

田久保 忠衛 たくぼただえ
日本会議会長・杏林大学名誉教授
   古森 義久  こもりよしひさ
×  産経新聞ワシントン駐在客員特派員
麗澤大学特別教授

田久保氏IMG99990

*   *   *

田久保

ドナルド・トランプ氏の勝利は驚きをもって受け止められていますが、私がまず思ったのは、ヒラリー・クリントン氏でなくてよかったなということでした。彼女が勝利していたらアメリカの政治は危機に瀕していたかもしれない。まず健康状態がひとつ。次に私利私欲にまみれたクリントン財団の問題。ここには中国系その他のダーティマネーが入っていたと言われている。そして、メールの公私混同問題。これは国家の安全保障に直結する。FBIの捜査対象の可能性のある人物が4年間大統領の椅子に座っていたらどうなるか。共和党が多数を取っている下院から大統領への弾劾決議が出たはずです。実際、クリントン氏が勝利したとしたらその瞬間に弾劾が発議されるという噂が流れた。もし私が中国の習近平なら弾劾と同時に尖閣諸島に武装漁民を入れたかもしれない。そのときアメリカも日本も手の打ち様がない。4年間の任期中、大統領が国内の野党勢力に脅されっぱなしになり、リーダーシップを発揮できずに、超大国アメリカがガタガタになっていた可能性がある。それにしても、米国の戦後史に大統領選で、互いの私行をこれだけ激しく暴き合う例があったかどうか。アメリカのモラルの低下をもたらしました。

古森

しかもクリントン氏の支持派のなかには、いまだに選挙結果を認めない人々がいる。まるでアナキズム(無政府主義)じゃないですか。

田久保

とはいえ、トランプ氏でよかったと手放しで喜べるものでは決してない。上下両院を与党(共和党)が占める強力な権限を持つ大統領が誕生することとなった。政策論争が少なかっただけに、トランプ氏の政策の方向性は、ほとんど未知といっていい。「米国第一主義」「孤立主義」「保護主義」などいくつかの断片的なキーワードはある。これらがそのまま実行されればアメリカの衰退は確実だが、果たしてどうなるかは誰にも分からない。なぜこうした無謀なことを言ってもトランプ氏が支持されたのか。それは米国内だけでなく、国際社会、ことに欧州の動きと無関係ではない。そこでまず、この世界的な動きについて私の見方をお話ししたい。今の国際情勢を私は三つの観点から見ています。

ひとつは、冷戦後いろいろな経過をたどった結果、どうやら価値観で分けられるような対立の構図が見えてきた。自由、法治、人権など普遍的価値観を共有する国々と、そうではない国々と。後者はロシア、中国、北朝鮮、イランなどが代表的な例でしょう。二つ目は、戦後の国際システムが帰着したところのグローバリゼーションに対するノーの動きが起こってきたことです。欧州ではイギリスがEUからの離脱を決定した。ブリュッセルにいるユーロクラートというEUの国際官僚が仕切って加盟国に指令を送ってくる。例えば移民、難民政策という、本来はイギリスの議会が決めるべき問題に対してブリュッセルが口出しをしてくる。つまりイギリスの主権とぶつかったわけです。イギリスに限らず欧州各地で移民、難民の増加に象徴されるグローバリズムへの不満が高まっている。三つ目は、国際政治学は国家と国家の関係を論じてきたけれども、まったく別のプレイヤーが現れたということです。9・11米同時多発テロ以降、続出してきた国際テロリストが、いまISを始め各地でテロを起こして各国の秩序を揺るがしている。フランス、イギリス、ドイツ、インド、パキスタン、そして南アジア、東南アジアに至るまで全世界的に波及しています。以上、三つが今日の国際情勢の特徴だと思います。そういう情勢を背景として、米国にトランプ氏が登場したと理解しています。

古森

今のお話と重なる部分もありますが、長年、現地でアメリカウオッチをしてきた立場から、アメリカの状況について述べたいと思います。グローバル化の行き過ぎに対する反発、主権国家の「主権」に対する見直し。この二つの流れがトランプ現象の背景にあります。グローバリゼーションで象徴的な問題は一つが移民、難民、ことに不法移民の増加であり、もう一つがテロの脅威です。外交面でいえば、マルチラテラリズム(多国主義)の問題がある。物事は二国間ではなく多国間で進めて行きましょうと。オバマ政権はこれが好きだった。一方で、主権国家の主権ということがあまり好きでなかった。世界に対して普遍的価値観を投射してその普及拡大に努めて行こうというアメリカの伝統的なやり方が嫌いだった。ファウンディング・ファーザーズという建国の父たちがいて、キリスト教にいた自由、競争、メリトクラシー(実績主義)によるアメリカンドリームを追い求めていくアメリカが嫌いだった。逆にオバマ大統領はこういうアメリカらしい価値観を否定し、競争して勝ち負けを競うのではなく、平等な社会に重きを置く社会主義的な政策を採った。このままでは、アメリカがアメリカでなくなるという、オバマ政権の超リベラル政策への反発がアメリカ国民の間に高まって行った。国家という人間だけが営むことの出来る存在なくしては人間は生きていけないという現実に国民が回帰し始めた。実は、2001年の9・11のときも同じような流れがありました。ブッシュ(ジュニア)政権でしたが、3千人が殺されて、テロの頻発、ことに細菌兵器への危機感が高まった時に、やはり国民そして社会を助けるのは主権国家なんだと。

例えば、世界貿易センタービルが破壊されたときまず出動したのは消防署であり、仮にバイオ兵器が使われたならば、まず動くのは保健所であり、軍の特殊部隊である。医療機関などの民間はその後にくる。つまり公という意味での主権国家こそが国民を守ってくれるのだという意識が高まった。ところが、そのブッシュ政権がイラクなどでやりすぎて、バラク・オバマの時代となった。それから8年間経てトランプの時代となる。ですからトランプ現象とは何かを一言でいえば、「オバマ否定」なのです。8年間オバマ大統領が体現してきたものを少なくとも選挙中のトランプ氏はすべて否定してきました。超大国アメリカの振り子が左に触れていたのが、真ん中に戻ってきて、これから右に触れるだろうという局面にきているのだと思います。オバマ氏が体現してきた少数民族や貧困層、移民などへの優遇策はクリントン氏が当選していたら引き継がれていた。彼女は不法移民も含めて1100万人はそのままでいいと言ってきた。そこでそのような移民流入の流れという方向の振り子はそのまま振れたままでいるのかもしれないと私は観察していました。ところが、やはりそうじゃなかった。貧困層、移民への援助の原資は、自分達が払っている税金だと中間層の不満は頂点に達していた。それが振り子を元に戻そうとしたのです。この超大国アメリカで起きた変化がこれから国際情勢にどういう影響を及ぼすのか。私は、百年に一度のパラダイムシフトが起きるかもしれない、そういう歴史的転換点のような気がしています。

 

(日本の息吹平成29年1月号より 平成28年11月15日対談)

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