新春対談 ”トランプ・ショック”と日本の覚悟 (田久保忠衛日本会議会長×古森義久氏)

新春対談 ”トランプ・ショック”と日本の覚悟 (田久保忠衛日本会議会長×古森義久氏)

新春対談 ”トランプ・ショック”と日本の覚悟 (田久保忠衛日本会議会長×古森義久氏)

オピニオン外交

田久保 忠衛 たくぼただえ
日本会議会長・杏林大学名誉教授
   古森 義久  こもりよしひさ
×  産経新聞ワシントン駐在客員特派員
麗澤大学特別教授

田久保氏IMG99990

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田久保

ドナルド・トランプ氏の勝利は驚きをもって受け止められていますが、私がまず思ったのは、ヒラリー・クリントン氏でなくてよかったなということでした。彼女が勝利していたらアメリカの政治は危機に瀕していたかもしれない。まず健康状態がひとつ。次に私利私欲にまみれたクリントン財団の問題。ここには中国系その他のダーティマネーが入っていたと言われている。そして、メールの公私混同問題。これは国家の安全保障に直結する。FBIの捜査対象の可能性のある人物が4年間大統領の椅子に座っていたらどうなるか。共和党が多数を取っている下院から大統領への弾劾決議が出たはずです。実際、クリントン氏が勝利したとしたらその瞬間に弾劾が発議されるという噂が流れた。もし私が中国の習近平なら弾劾と同時に尖閣諸島に武装漁民を入れたかもしれない。そのときアメリカも日本も手の打ち様がない。4年間の任期中、大統領が国内の野党勢力に脅されっぱなしになり、リーダーシップを発揮できずに、超大国アメリカがガタガタになっていた可能性がある。それにしても、米国の戦後史に大統領選で、互いの私行をこれだけ激しく暴き合う例があったかどうか。アメリカのモラルの低下をもたらしました。

古森

しかもクリントン氏の支持派のなかには、いまだに選挙結果を認めない人々がいる。まるでアナキズム(無政府主義)じゃないですか。

田久保

とはいえ、トランプ氏でよかったと手放しで喜べるものでは決してない。上下両院を与党(共和党)が占める強力な権限を持つ大統領が誕生することとなった。政策論争が少なかっただけに、トランプ氏の政策の方向性は、ほとんど未知といっていい。「米国第一主義」「孤立主義」「保護主義」などいくつかの断片的なキーワードはある。これらがそのまま実行されればアメリカの衰退は確実だが、果たしてどうなるかは誰にも分からない。なぜこうした無謀なことを言ってもトランプ氏が支持されたのか。それは米国内だけでなく、国際社会、ことに欧州の動きと無関係ではない。そこでまず、この世界的な動きについて私の見方をお話ししたい。今の国際情勢を私は三つの観点から見ています。

ひとつは、冷戦後いろいろな経過をたどった結果、どうやら価値観で分けられるような対立の構図が見えてきた。自由、法治、人権など普遍的価値観を共有する国々と、そうではない国々と。後者はロシア、中国、北朝鮮、イランなどが代表的な例でしょう。二つ目は、戦後の国際システムが帰着したところのグローバリゼーションに対するノーの動きが起こってきたことです。欧州ではイギリスがEUからの離脱を決定した。ブリュッセルにいるユーロクラートというEUの国際官僚が仕切って加盟国に指令を送ってくる。例えば移民、難民政策という、本来はイギリスの議会が決めるべき問題に対してブリュッセルが口出しをしてくる。つまりイギリスの主権とぶつかったわけです。イギリスに限らず欧州各地で移民、難民の増加に象徴されるグローバリズムへの不満が高まっている。三つ目は、国際政治学は国家と国家の関係を論じてきたけれども、まったく別のプレイヤーが現れたということです。9・11米同時多発テロ以降、続出してきた国際テロリストが、いまISを始め各地でテロを起こして各国の秩序を揺るがしている。フランス、イギリス、ドイツ、インド、パキスタン、そして南アジア、東南アジアに至るまで全世界的に波及しています。以上、三つが今日の国際情勢の特徴だと思います。そういう情勢を背景として、米国にトランプ氏が登場したと理解しています。

古森

今のお話と重なる部分もありますが、長年、現地でアメリカウオッチをしてきた立場から、アメリカの状況について述べたいと思います。グローバル化の行き過ぎに対する反発、主権国家の「主権」に対する見直し。この二つの流れがトランプ現象の背景にあります。グローバリゼーションで象徴的な問題は一つが移民、難民、ことに不法移民の増加であり、もう一つがテロの脅威です。外交面でいえば、マルチラテラリズム(多国主義)の問題がある。物事は二国間ではなく多国間で進めて行きましょうと。オバマ政権はこれが好きだった。一方で、主権国家の主権ということがあまり好きでなかった。世界に対して普遍的価値観を投射してその普及拡大に努めて行こうというアメリカの伝統的なやり方が嫌いだった。ファウンディング・ファーザーズという建国の父たちがいて、キリスト教にいた自由、競争、メリトクラシー(実績主義)によるアメリカンドリームを追い求めていくアメリカが嫌いだった。逆にオバマ大統領はこういうアメリカらしい価値観を否定し、競争して勝ち負けを競うのではなく、平等な社会に重きを置く社会主義的な政策を採った。このままでは、アメリカがアメリカでなくなるという、オバマ政権の超リベラル政策への反発がアメリカ国民の間に高まって行った。国家という人間だけが営むことの出来る存在なくしては人間は生きていけないという現実に国民が回帰し始めた。実は、2001年の9・11のときも同じような流れがありました。ブッシュ(ジュニア)政権でしたが、3千人が殺されて、テロの頻発、ことに細菌兵器への危機感が高まった時に、やはり国民そして社会を助けるのは主権国家なんだと。

例えば、世界貿易センタービルが破壊されたときまず出動したのは消防署であり、仮にバイオ兵器が使われたならば、まず動くのは保健所であり、軍の特殊部隊である。医療機関などの民間はその後にくる。つまり公という意味での主権国家こそが国民を守ってくれるのだという意識が高まった。ところが、そのブッシュ政権がイラクなどでやりすぎて、バラク・オバマの時代となった。それから8年間経てトランプの時代となる。ですからトランプ現象とは何かを一言でいえば、「オバマ否定」なのです。8年間オバマ大統領が体現してきたものを少なくとも選挙中のトランプ氏はすべて否定してきました。超大国アメリカの振り子が左に触れていたのが、真ん中に戻ってきて、これから右に触れるだろうという局面にきているのだと思います。オバマ氏が体現してきた少数民族や貧困層、移民などへの優遇策はクリントン氏が当選していたら引き継がれていた。彼女は不法移民も含めて1100万人はそのままでいいと言ってきた。そこでそのような移民流入の流れという方向の振り子はそのまま振れたままでいるのかもしれないと私は観察していました。ところが、やはりそうじゃなかった。貧困層、移民への援助の原資は、自分達が払っている税金だと中間層の不満は頂点に達していた。それが振り子を元に戻そうとしたのです。この超大国アメリカで起きた変化がこれから国際情勢にどういう影響を及ぼすのか。私は、百年に一度のパラダイムシフトが起きるかもしれない、そういう歴史的転換点のような気がしています。

 

(日本の息吹平成29年1月号より 平成28年11月15日対談)

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