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日本を語る
今こそ、心と体をつくれ日本の教育


 ─「授業改善」「完全ご飯給食」
   「花壇づくり」で非行がゼロに! 

 長野県上田市教育委員長 大塚 貢 さんに聞く

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※『日本の息吹』19年3月号より。お申し込みはこちらから

●プロフィール
おおつか みつぐ
昭和11年長野県生まれ。信州大学教育学部卒。中学教員を経て、都内ビル・マンション建築会社に就職。その後長野県で、教育委員会指導主事、中学校教頭、中学校校長、真田町教育長等を歴任、18年4月から現職。



●つまらない授業をなくせ

─ いじめや自殺のニュースが絶えませんが、先生は荒れた学校を改革して大変な成果を上げられました。

大塚◆私が赴任した学校の中でも校長として赴任した千二百人の生徒が通う中学校は、大変荒れていました。校内に煙草の吸い殻が散乱し、非行も多く、不登校生も六十人以上いました。

 このような学校は、決して珍しくはありません。最近はいじめや自殺などの悲しい事件が毎日、報道されています。事件を起こす生徒も決して特別な子供ではありません。学校は、この生徒たちを本当に救うことが出来なかったのでしょうか?

 私の体験から言えば、救うことはできると確信しています。これらの事件の根本は、心の教育と体の土台作りをしようとせずに、無理に詰め込み学習をしようとしている所に問題があるのです。

 私が荒れた中学の校長となった時、なぜ荒れているのかは生徒の態度を見て分かりました。つまらなさそうに机に伏せていて、教科書も出していない。不登校が多いのは、結局、授業がつまらないのです。エネルギーのある生徒たちは、エネルギーを発散するために非行やいじめを起こす。いじめられる生徒は不登校になるという状況でした。

 先生方は、子供が悪い、親が悪いと言っていましたが、私は「授業を見せてもらったが、私は十分間、座っていられなかった。教室から外へ出て煙草を吸ったり、非行をする子供もいるが、一方でこのつまらない授業を五十分間、我慢をして席に着いている子供もいる。この子たちは、私よりも遙かに我慢強い。まず分かる、出来る、楽しい授業に改善しよう」と先生方に訴えました。

─ 提案された時の反応は?

大塚◆全員がすぐ立ち上がったわけではありませんでしたが、心ある先生方は徹底的に教材研究をしました。生徒が分かるようにするにはどうしたらいいのか。個人、各教科で本気で取り組みました。

 半年もすると、私が見ても教えられる点が沢山ある授業になり、面白い授業になりました。生徒の学ぶ姿勢も変わりました。外に抜け出す子供が抜け出さなくなり、今まで机に顔を伏せていた子供たちが変わり、背筋がピンと伸びた姿勢になりました。七ヶ月後には散乱していた煙草が一本も無くなりました。一年後には、非行はほぼゼロになり、授業改善は非常に成果を得ました。

●ご飯給食で非行がゼロに

─ 心の教育と体の土台作りについての具体的取り組みをお話し頂けますか。

大塚◆まず体の土台作りです。これが心の安定にもつながります。授業が改善されても、まだ無気力な生徒、キレる生徒がいました。また全校集会等で貧血で倒れる生徒が多かったのです。私は以前、食事の調査をした経験がありましたので、一週間、食事の実態調査をしました。平成四年当時、食事と非行の相関関係はまだ指摘されていませんでした。

 学校が荒れている頃は三〇%を超す生徒が朝食を抜いていました。また朝食を取っていても、魚や野菜はほとんど取らず、パンとハムやウインナーなどの肉類で、飲み物はジュースといった状態です。肉の脂肪分と砂糖の入ったジュースでは栄養が偏ります。空腹で、栄養が偏った生徒はいらいらしやすく、いじめや非行を起こしたり、無気力になります。そのような相関関係が、調査でわかりました。

 そこで父母に、肉、魚、野菜のバランスの良い食事をと訴えましたが、とにかく子供の好きなものを与えて、食べ残しを少なくすることを目標とする家が多く、特に非行やいじめを起こしている生徒の親の反応はほとんどありませんでした。それで学校給食から変えなくてはだめだという結論に至ったのです。

 当時、学校は六日制で、二食が米飯、四食がパンとソフト麺でした。バランスの良い食事を栄養士や調理士の方々と色々と試みました。魚を食べさせて、カルシウム、ミネラル、DPA、EHAなど、血管を柔らかくして、血流を良くする食事にしたい。パンには魚が合わないので、米飯を増やそうとするが、先生、生徒、親も反対でした。ですからまず、栄養士に授業に入ってもらい、食事の大切さを分かり易く訴えて貰いました。徐々に先生も生徒も、自分の問題として考えるようになりました。そしてソフト麺やパンで一食、魚・野菜に合う米飯を五食にしました。調理師の方々の工夫で非常においしい給食になりました。

 三、四、五、六ヶ月経つと子供たちの生活は落ち着き、授業で無気力な生徒も、キレる生徒もいなくなり、二年目には、万引きや非行等の犯罪がゼロになりました。六十人以上いた不登校生も二人程になったのです。

●花を育てて心の教育を

大塚◆もう一つは心の教育です。教員の時は野菜を育てたり、動物を飼ってみたりしましたが、野菜は二〜三日間水をあげなくても平気ですし、動物は小さい時だけかわいがって、大きくなればほとんど目もくれない。生徒に命あるものを大事にする心をどう育てるのか。学校が潤い、癒しの場となるにはどうしたらいいのかと考えたとき、花を育てることが一番効果的でした。

 花作りは、クラス、係の単位で取り組みました。そしてあえてグランドの横に、教室よりやや小さめの花壇を二つ作りました。そこに野球やサッカーボールが入って花の苗が痛んだとき、それで当たり前と思うのか、これではいけないと思うのか、一つのバロメーターとしました。

 最初の春花壇の時は、何十本もの花がサッカーや野球のボールでなぎ倒されました。場所が場所ですからボールが入るのは仕方がありません。生徒たちの心が荒れている時は、ボールを取るために平気で花壇に入り、苗を踏みつぶしていきました。その花壇で苗を育てていた生徒たちから見れば、非常に切ないのです。しかし、私は「花を大事にしろ。花壇に入るな」とは一切言いませんでした。ただ一所懸命に作っている子供たちが可哀想なので、夜会議で遅くなっても、車のライトで照らしながら、多い時には八十から九十本の苗を植え替えました。そうすれば子供たちは悲しまないで済む。やがて春花壇が見事に咲きました。続けて七月過ぎからは秋花壇の苗に植え替えました。それ以後五年間、野球やサッカーのボールで折れた苗は二本だけ。花壇の中に入り込んだ生徒は一人もいませんでした。春花壇の時には、ボールを取るために花壇に踏み込んだ生徒も、違う場所で花を育てていたが、人の花壇には平気で踏み込んでいました。しかし自分も汗をかき、花壇を作り、花を育てた結果、他の花壇も大事にするようになったのですね。美しいものを大事にする心が芽生え、花にも命があることが分かってきたのです。

 次の年は、全国花壇コンクールで文部大臣賞を頂き、そして毎年、文部大臣賞相当賞を頂くようになりました。
 生徒たちは約三万本の苗を学校で育て、半分を学校で、残り半分を地域の公民館やお宮や空き地や道路脇に、地域の皆さんと一緒に植えていきます。学校から発信して、町にも美しい花が咲いてきれいになりました。花作りは、土づくり、たい肥づくり、苗づくりの全てを自分たちで行います。業者ではなく自分たちが汗を流し、泥まみれにならなければ、本当の心の教育にはならないからです。

●いじめの根本的解決とは

─ 平成九年教育長に就任されて、町全体の教育改革に取り組まれました。
大塚◆旧真田町には小学校が四校、中学校が二校あります。私が教育長に就任した時には町内の学校は大変荒れていました。小学校も勉強する意欲が低く、中学校では生徒たちが暴走行為をして、公共物を破壊するといったことが日々続いていました。やはりその原因は授業がつまらない、分からない、学校に楽しさがないですね。

 校長のときの体験を基に先生方と授業改善に取り組みました。また全国で百数万人が受ける数研式CRT学力テストを導入しました。出来た、出来ないや、学力競争に使用するのではなく、優れている点、劣っている点を明らかにして指導方法を全教員で徹底的に検討し、全員の先生が研究授業を通して、授業改善に生かしています。そういった努力の結果、町全体の学力が向上し、学力が高いランクに半数以上が入り、学力が低いランクの児童・生徒が少ないか、ほとんどいません。(※図1)ここ数年、非行もいじめも無くなっています。

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●キャプション
図1・真田町の学力(数研式・CRT学力テスト・全国 17年5月)
A=学力が高いランク、B=中間、C=低い 
ABCの各ランクに入る%、全国平均と学校平均(斜線が真田町)


 教育再生会議でもいじめについて議論されていますが、結局「いじめを起こすな」と学校から生徒に発しているだけでは、いじめは無くならないですね。指導をしてもいじめを続けている生徒は、登校停止にすることは大事だと思います。そのことで親も子も「恥」を知るわけですから。しかし根本的に、分かる、出来る、楽しい授業が行われなくては、本当の解決にはなりません。

 それから、殺風景な学校を潤いのある学校・子供がホットする癒しの学校にするため全校へ花作りを提案しました。「時間が無い。場所が無い」と拒否する先生もいましたが、実際はやる気があるか、無いかの問題でした。今は学校が美しいと聞いて見学に来る方もおります。

─ 生徒たちの心の変化は

大塚◆ある時、小学三年生の男子が夏の暑い日曜日にお母さんとお姉ちゃんと学校に来て、花一本一本本当に丁寧に水を与えていました。ホースで水をまけば引きずって苗を痛めてしまうからと、ジョウロで水をくれているのです。

 また秋花壇の時期、ある小学校では菊を育てていました。菊の花弁に油虫がたかっていて、その油虫を爪楊枝を使って、手に載せたティッシュぺーパーの上に落としている姿を見ました。私が殺虫剤を花にかけたらと言うと、「花が痛んでしまいます」と怒るのです。

 花の命を大事にするという気持ちが育って来ていますね。そういう気持ちが育ってきた生徒から友達をいじめる気持ちは起こらないですね。、多くのいじめの指導は、現象面に捕らわれているように思います。いじめが起きないように、根本の心を作りあげなければならないと思います。文部科学省も政府も子供の心をどう育てるのか、具体的に取り組んでもらいたい気持ちで一杯です。

●地元の安心食材で完全和食に

─ 町全体の給食改革にも取り組まれました。

大塚◆町内全校でも実態調査をしました。結果は校長の時と同じで、非行を起こしている生徒、キレる生徒、学習に対して無気力な生徒は、朝食を抜いていました。朝食抜きの生徒が三十%を超えていました。これでは先生方の授業改善も心の教育も受け止められません。給食は五食米飯、完全和食にしました。米、野菜、果物等の食材は、地元産の低農薬作物を使用し、また牛乳は牧場から、飼料も調べて、全て専用のタンクローリーで運んでいます。魚も、日本産の生産地を確認したものです。低農薬、安心・安全の食材を使用していますので、アレルギーやアトピーが無くなるのです。東京から重度のアトピーの生徒が転校してきましたが、治ってしましました。

 肉の取りすぎは、血の巡りが悪くなるので肉は家庭の食事にある程度まかせて、バランスを取るために、学校では魚を多くしています。小魚も毎日手のひら一杯づつ食べています。いじめやキレる生徒がいなくなり、中性脂肪過多の生徒も少なくなりました。

 このような給食改善を全国で行えば、成人病予防にもなり、日本の医療費の上昇も防げるのではないでしょうか。

●体と心のバックボーンを育てる

─ 教育再生会議では教育の評価・研修等を方針として掲げています。これらの施策等についてどうお考えですか。

大塚◆実際、学校現場には指導力不足の先生がいます。このような先生がいることは生徒にとって不幸です。先生をどう評価するのか、努力して再生できるのか出来ないのかを早くはっきりと見極める必要があります。学校は将来の日本を背負う子供を育てていくところですから。免許更新で十年に一度講習会を開くといいますが、それでは効果はほとんど無いでしょう。

 旧真田町では生徒と父母の評価を受けています。生徒には〈授業で今日の目標が示されているか。板書は分かりやすいか。授業内容はよく分かったか〉等を尋ね九〇%前後の高い評価を得ています。父母には〈子供が生き生きと学校生活を送っているか。意欲的に学習に参加しているか〉等を尋ねて、九〇%以上の評価を受けています。この結果は全家庭に配布します。先生方は結果を、恥や優劣とは受け止めていません。教師力・指導力向上の為の改善資料として真摯に受け止めています。

─ 教育基本法の論点だった愛国心、宗教教育については

大塚◆郷土を愛し、国を愛せなかったら、人間として本当に淋しいです。自分自身が日本に生まれ、育ったことを誇りに思う。そういうものを教育の柱としていかなければ日本は発展しませんよ。

 宗教的な情操教育についてですが、私は、三十年代後半から四十年代頃の荒れたアメリカに行ったことがあります。ハーレムでは連日殺人が起きていました。その原因はかつて貧しくても教会に行っていた人々が、五、六十%に落ちてきてしまっていることにありました。人間としての生き方の基本が見失われているという話を聞きました。今、日本では宗教離れが進んでいます。命の尊さ、食のありがたさを家庭では教えていません。体と心のバックボーンが失われていて、ただ学力を高めるだけの教育がある。今の教育問題は、人間の基本的な体と心を育てることが崩壊しているところから生じていると思います。

 いじめや非行や不登校、無気力と言った問題を無くすために、根本問題に取り組まなければ、教育問題の解決は出来ません。分かる・できる授業改善と、子供の心と体をつくる学校改革を全国で取り組めば、私はかつての日本の素晴らしい教育が甦ると思います。思いやりがあって、心も体もたくましいかつての日本人、そして美しい日本の国を甦らせることは不可能ではない。安倍総理大臣が教育改革に本気で取り組んで頂いているのは本当に有難い。さらに教育の根本に踏み込み、実現可能な施策を講じて頂ければ、日本の教育は確実に変わる。それが日本を発展させるか、否かの境目になると思います。

※『日本の息吹』19年3月号より。お申し込みはこちらから