1:夫婦別姓制度が議論されるのはなぜですか?
現在の民法では、結婚に際して夫婦は夫か妻のどちらかの姓を名乗ることが定められています。
明治以降の我が国の民法では、「戸主並びに家族はその家の『氏』(姓)を称する」と、姓を、先祖代々受け継がれてきた「家」の呼称としていました。戦後は民法改正に伴い、姓を「夫婦及び子」の呼称、つまり家族の名称(ファミリーネーム)へと改めたのです。
ところが、昭和60年代以降、女性の社会進出に伴い、結婚後も仕事を続ける場合、改姓による様々な証明書類の訂正手続きが面倒であるとの声があがり、政府は「夫婦別姓制度」の導入を検討し始めました。
民法 750条 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する。
2:選択的夫婦別姓制度とはどのようなものですか?
選択的夫婦別姓制度の導入について、これまでいくつかの法案が国会に提出されてきましたが、要点を簡単にまとめると次のようになります。
【第1案】
夫婦は結婚の際に、夫または妻の姓を称するか、各自の旧姓を称する。
夫婦が別姓の場合、子供の姓は結婚の際に決める。
【第2案】
夫婦は結婚の際に、夫または妻の姓を称するか、各自の旧姓を称する。
夫婦が別姓の場合、子供の姓は出生時に決める。
尚、いずれの場合も子供の姓について夫婦の協議が調わない時は、家庭裁判所が調停する。
3:これまでどのような論議がなされてきましたか?
この夫婦別姓の問題は、平成8年に法務省が民法改正案をまとめた際、「選択的夫婦別姓」制度の導入を提言したことから、にわかに国会で論議を呼ぶようになりました。
この案が発表されると、国民の間から一斉に反対の声が上がり、全国各地の地方議会でも反対・慎重対応を求める決議が行われています。
平成8年以降、民主党、社民党、共産党などを中心に夫婦別姓を求める法案が何回か国会に提出されましたが、いずれも審議未了のため廃案となっています。
選択的夫婦別姓に反対する主な理由には、次のようなものがあります。
@夫婦別姓は、親子別姓であり、子供に悪影響を与えるおそれがある。
A実際に夫婦別姓を選択しようと望む人は僅かである。
B仕事上の不便は、旧姓を「通称」として使用できるよう法整備することで解決される。
C同姓制度と別姓制度を同等のものとして、二つの家族形態が共存することはふさわしくない。
D別姓制度は、結婚・離婚のハードルを低くし、安易な結婚・離婚が増加するおそれがある。
●夫婦別姓制度の導入に反対、又は慎重な対応を求める地方議会決議
8県議会・64市議会・289町議会・67村議会/合計428議会
4:現在論議されている別姓制度は、選択制なので問題ないのではないですか?
別姓制度をめぐる議論の一つは「選択制だから問題はないのではないか」というものです。推進派は、大多数の国民の生活には影響を与えないのだから、少数派の権利を保障してほしいと主張しています。
しかし本当にそうでしょうか。
確かに、現在、別姓制度を選択しようとしている人は内閣府の世論調査でも1割程度と圧倒的少数といえます。しかし、これが長い年月を経た場合どうでしょうか。
今日ですら、夫婦同姓制度を維持しようとしている人や国会議員に対しては「現代の化石」というようなレッテル貼りがなされ、別姓にあらざれば人にあらずというような風潮が作り出されようとしています。法制化されていない現在でもこうなのですから、一旦法制化されれば、マスコミなどを通じて一層の別姓促進キャンペーンが張られることは明らかでしょう。
そればかりではありません。現在、選択的夫婦別姓制度の導入を求めているグループの最終目標は、「選択制」ではないのです。
例えば、東京弁護士会が出した「これからの夫婦別姓」(日本評論社)では、次のような主張があります。「夫、妻それぞれが相手に譲歩することなく、自分の望む姓を使用できる権利を認められることによって、初めて結果の平等が満たされるのである」と、最終的には「夫婦完全別姓」を意図しているのです。
家族制度は、国民生活の基本に係る重要な政策です。仮に選択的夫婦別姓制度を導入して、様々な弊害が生じた場合、他の政策のようにこれを廃止するということは不可能といって良いでしょう。
選択的夫婦別姓制度が導入された場合の50年後、100年後の日本の家族像をよく見据えた上で、慎重に検討する必要があります。
5:一人っ子同士の結婚の場合、家の姓を残すため夫婦別姓制度を認めてはどうですか?
現在の日本では一人っ子の家族が増加しており、一人っ子同士が結婚する場合にはファミリーネームがとぎれてしまうので、夫婦別姓を認めることで解決できるのではないかという主張があります。
しかし、この問題をよく考えてみると、たとえ一人っ子同士の結婚で夫婦別姓を認めたとしても、子供の姓については統一するというのが各党の提出している夫婦別姓法案ですから、結局は父方か母方どちらか一つのファミリーネームが子供の代で断絶することになります。
仮にファミリーネームを残すことを目的として夫婦別姓を導入するとするならば、二人以上の子供を生むことが必要であり、なおかつ兄弟姉妹各々の姓が異なることを認めなければなりません。
6:諸外国では夫婦の姓についてどのような制度が取られていますか?
夫婦別姓を推進する人々の中には、別姓制度が世界の大勢だと主張する人々がいます。
しかしながら、各国の法制度は、家族を尊重する精神に基づいて、ファミリーネームを守ろうとする考え方を基本としています。現在我が国で議論されている選択的夫婦別姓制度のように、家族の姓を同姓にするか、別姓にするかを完全に自由な選択の対象としている国は、世界から見ても極めて特殊なものなのです。
※参考資料
世界の国々はファミリーネームの維持に努めています
「夫婦別姓」は世界の潮流ではありません
@日本の民法改正案は夫婦の姓と子の姓を、自由に選択できる世界でも特異なものです。
A別姓採用の国でも子の姓を父の姓や結合姓にして家名の継承をはかっています。
B先進国のほとんどが子の姓を父の姓や結合姓にしています。
C夫婦完全別姓の国でさえ、子の姓を父の姓や結合姓にしています。
家族にファミリーネームを使用させている国 ファミリーネームを持たないことを認めている国
@夫婦・親子同姓の国
インド・タイ・日本
A同姓を原則とし旧姓の付加(結合姓)も認める国
オーストリア
スイス(子は父の姓)
B同姓を原則とし、例外的に別姓を認めている国
ドイツ
C妻が夫の姓を付加(結合)する国
ペルー・ブラジル
イタリア・アルゼンチン(子は父の姓)
D慣習法上、妻が夫の姓を称する国
イギリス
フランス(結合性・旧姓の使用も可)
@夫婦完全別姓の国
スペイン(子は父母の結合姓)
カナダ・ケベック州(結合姓も可)
サウジアラビア・韓国(子は父の姓)
A別姓を原則とし、同姓や結合姓も認める国
中華人民共和国(子の姓は別姓の場合選択)
オランダ(子は父の姓)
B同姓、別姓の自由な選択を認めている国
日本(今回の選択的夫婦別姓法案)・スウェーデン(子の姓は別姓の場合選択)
7:夫婦別姓推進派が目指している家族像とはどんなものですか?
夫婦別姓推進派の代表的論客の家族観をいくつかご紹介しましょう。
●福島瑞穂参議院議員(社民党・弁護士)
@結婚をしていようがいまいが、心はどうしようもなく動いていく。結婚をした後だっていろんな出会いがあるし、素敵な人に会うことだってあるだろう。また、人を好きになるときに「未婚」と「既婚」を振り分けているわけではない。…「恋愛は自由競争」ではないだろうか。あるいは、「愛情の切れ目は縁の切れ目」なのだ。
A私は、子供が18歳になったら『家族解散式』というのをやろうと思っていて、それ以降は、パートナーと子供ともスープのさめない距離に住んで、名実共に個人単位で暮らしていきたいなと思っている。
B家族だって、ひとつの定義にすぎない。家族も個人のネットワークなんだ。
(「結婚はバクチである」大和書房)
C子どもが18歳になれば、「ごかってに」と言いたい。365日、24時間、他人の干渉なしに生きて、自分でも白紙の人生をどう生きるか考えたらいいし、私もそうしたい。私の場合は、子どものごはんや休みのいろんなやりくりをすることから『解放』されたいのだ。バンザーイ。
(「福島瑞穂の落第子育てノート」主婦の友社)
●二宮周平・立命館大学教授
@家族を、血縁、地縁、人の縁、職場の縁などの多様な人間関係のネットワークの一つとして位置づけてみてはどうだろうかと考えています。…人は一人で生まれて一人で死んでいきます。その過程で、いろいろな人と出会い、世話になったり、世話をしたりする。家族はそうした出会いと世話の場、各人の知恵と情報を伝え合う場の一つであり、それ以上でもそれ以下でもないのではないでしょうか。 (『変わる「家族法」』かもがわ出版) といった具合です。
男女の恋愛感情を、社会的な夫婦関係や親子関係よりも優先し、特に子どもの将来に関しては全くの無関心である推進派の目指す家族像が日本の将来にとって望ましいと言えるでしょうか。私たち一人一人が、家族という運命共同体の中で培ってきたものの大きさを思うとき、家族の解体を目標に据えた夫婦別姓制度の導入は、決して認められるものではありません。
9:夫婦別姓制度導入の反対派が提案する対案はどのようなものでしょうか?
「夫婦別姓」を求める背景には、結婚しても働き続ける女性が、仕事上不便を被るという意見があります。本当に不便が生じると国民は考えているのでしょうか。内閣府の世論調査では、
「不便を生ずる」41・9%
「不便を生じない」52・9%
と、過半数の人々が「不便を生じない」と答えています。また「不便を生じる」とする人の中でも、10・8%の人が、結婚する以上ある程度の不便は致し方ないとしています。
更に、この結果を婚姻経験の有無でみてみると、
未婚者「不便を生ずる」(50・3%)
「不便を生じない」(44・4%)
既婚者「不便を生ずる」(40・4%)
「不便を生じない」(54・4%)
となっています。
この結果から未婚者の間には、不便が生ずるとの懸念が強いものの、既婚者になると、実際思ったほどの不便は生じなかったという生活実感が読み取れるのではないでしょうか。
それでは、不便を感じる人に対してはどのような解決策があるのでしょうか。
不便を生じないよう対策を求める人(23・8%)のうち、「通称使用で対応」とする人が、全体の13・5%、「通称では対処しきれない」と別姓制度を求める人が9・9%という結果が得られました。
以上の結果から、婚姻で不便を生じることはない、又は不便も仕方がないという人が約64%と多数を占めますが、それ以外で不便を感じる人への対処法としては「通称使用」が望ましいと考えていると言えるでしょう。
私たちは、会社、学校、サークルなど様々な共同体に属し、それらを通じて社会に参画しています。その中でも人が最初に属し、最も身近な共同体が家族であり、社会がうまく機能するためにも、人が心穏やかに生きるためにも家族は不可欠なものであると思います。であるからこそ、私たちの祖先は家族という形態を今日まで維持し続けてきたと思うのです。現状に目をやるばかりでなく、こういった歴史の事実をしっかり踏まえなければなりません。別姓制度の導入で家族の解体が進めば、同じ社会にいる私たちは、多かれ少なかれ影響を受けます。「自分は同姓を選択するから関係ない」と言っている場合ではありません。時代とともに生じてきた問題の解決に努力することは必要ですが、世界を見ても、自国の歴史を見ても、自分の家族の存在を考えても、家族という形態は今後も維持すべき大切なものであると思います。
人権と家族─伝統・文化と調和した
人権・家族制度を
人権・家族制度を