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慰安婦「強制連行」はなかった

 「日本政府や軍が慰安婦を強制連行した」という事実について、改めて、何ら証明されていないことを確認したい。その事実は、平成9年の国会審議を通じて明らかになっている。ここに平成9年当時発表された論文を掲載する。(日本会議事務局)

「河野談話」の根拠は、韓国政府が用意した元慰安婦の裏付けなき証言だけだった。



■日本を性犯罪国家とした「河野談話」
 平成八年六月末、中学校用歴史教科書の七年度検定結果が発表され、教科書を発行する七社が一斉に「従軍慰安婦」を掲載していることが明らかになった。 いずれも、「強制連行」の一環として書いていた。
 「中学校の歴史教科書に、従軍慰安婦!!」、この報道は、日本中を巻き込んだ大論戦を起こすことになった。
 戦前も戦時中も、日本には従軍慰安婦なんて制度はなかった。日本軍が強制連行をしたなんて全くのデマだ。ありもしないことをなぜ中学生に教えなければならないのか――。国民の憤激は高まるばかりで、平成八年末には、これまで歴史問題に発言してこなかった識者までが結集して「新しい歴史教科書をつくる会」を結成し、「慰安婦」記述削除を訴えた。

 なぜ「従軍慰安婦」が歴史教科書に掲載されるようになったのか。

 発端は、平成五年八月に河野洋平官房長官が「談話」という形で述べた次のような「政府の公式見解」である。
「慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主にこれら当たったが、その場合も、甘言、弾圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。」

 この談話は単なる一学説などではない。日本政府の公式見解なのである。戦時中、日本軍や官憲が、朝鮮やフィリピン、インドネシアの婦女子を直接拉致・連行し、慰安婦(英語ではsexslave=性奴隷と訳されている)にするというヤクザまがいの罪を犯したと、日本政府が公式に認めたのである。
 外国から見れば、日本には性奴隷という正式な制度が国家(軍)にあり、戦時中の日本は国家として、その性奴隷制度のためにアジアの女性たちを軍や官憲を使って強制的に募集・拉致するという、誠に嫌悪すべき犯罪を常習的にやっていた、ということを現在の日本政府が公式に認めたということなのである。この談話はその後、国連クマラスワミ報告にまで悪用され、日本は「性犯罪国家」として弾劾されることになったのである。

 河野談話は最後に次のように言う。
「われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。」

 つまり、国家としてアジアの女性たちを性奴隷とするべく拉致・監禁した“事実”を、歴史教育の場で永く語り伝えることを決意すると世界に表明したわけである。この「談話」が教科書記述に反映され、国民の猛反発を招いたのである。

■「強制募集を証明する政府文書は存在しない」

 こうした世論を反映して平成九年の通常国会でも、いわゆる「従軍慰安婦」問題についての論議が相次いだ。一部この問題に触れたものも含めると、次のような議員が質問している。

1月30日 参議院予算委員会 片山虎之助議員(自民)・田村秀昭議員(新進)
2月3日 衆議院予算委員会 西村眞悟議員(新進)
2月7日 衆議院予算委員会 栗本慎一郎議員(自民)
2月19日 衆議院文教委員会 池坊保子議員(新進)
3月12日 参議院予算委員会 小山孝雄議員(自民)
3月18日 参議院予算委員会 板垣 正議員(自民)

 特に片山虎之助議員、小山孝雄議員、板垣正議員による質問によって、重要な政府答弁が相次いで引き出された。

 そこで、ここでは国会審議をもとに「慰安婦」論議を検証しよう。ポイントは「河野談話」が客観的歴史事実に基づいたものであったか否かである。「慰安婦強制募集」が教科書検定をパスするのは、河野談話によって政府がそれを認めている、ということが根拠の第一となっている。ならば、その「談話」のよってたつ資料や調査が、真に学問的客観性に堪えうるものなのかを検証しようというのである。

 まず、片山議員は次のように追及した。

 片山議員 そこで、今文部大臣が言われた平成五年八月四日の外政審議室の調査、それに基づく官房長官の談話がこれまた不正確なんですよ。軍が関与していると。関与はしていますよ。関与にもいい関与、悪い関与、積極的な関与、消極的な関与があるんだから。それは兵士を守るために消極的にはいい関与をしたんですよ。だから、それは私は否定しません。それじゃ、強制連行や強制募集、そういうことの事実が確認できたかどうかなんです。ところが、あの調査報告も官房長官談話もかなり曖昧なんです。そこで、外政審議室長、どういう調査をしましたか。

 平林博外政審議室長 お答えを申し上げます。政府といたしましては、二度にわたりまして調査をいたしました。一部資料、一部証言ということでございますが、今先生御指摘の強制性の問題でございますが、政府が調査した限りの文章の中には軍や官憲による慰安婦の強制募集を直接示すような記述は見出せませんでした。ただ、総合的に判断した結果、一定の強制性があるということで先ほど御指摘のような官房長官の談話の表現になったと、そういうことでございます。

 調査は〈資料〉と〈証言〉に基づいてなされたが、〈資料〉には、軍や官憲が「強制」連行を行ったことを示す記述は一切なかった、ということがこの答弁で明らかになった。そこで片山議員は、〈資料〉すべての公開を求めたところ、政府はこれを了承した。
 それでは、「総合的に判断した結果」とはいかなることを意味するのか。〈証言〉が「強制」を裏付けたということなのか。

■「証言の裏付けはとっていない」

 この点を鋭く追及し、画期的な答弁を引き出したのが、公開された政府資料のすべてを調査するなど万全の準備を整えて質問に臨んだ小山孝雄議員であった。
 結論から言えば、政府は「河野官房長官談話の根拠となったものは、客観的裏付けのない元慰安婦の証言だけであった」と認めたのである。その質問と答弁の重要部分をここに紹介したい。

小山議員 (平成九年)一月三十日の本委員会で、片山委員の質問に対しまして、政府のこれまでの慰安婦問題に関する調査では慰安婦の強制連行はなかったという答弁をされましたけれども、もう一度外政審議室に確認をいたします。

平林外政審議室長 お答え申し上げてきておりますのは、政府の発見した資料の中に軍や官憲による慰安婦の強制連行を直接示すような記述は見出せなかった、こういうことでございまして、その点は確認させていただきます。(中略)

小山議員 先ほど慰安婦の強制連行はなかった、政府の資料から見出せなかったということを御答弁になりましたけれども、どうしてそういうことを平成五年八月四日の調査結果を報告するときに記入しなかったんでしょうか、あるいは発表しなかったんでしょうか。それどころか、報告書には「業者らが或いは甘言を弄し、或いは畏怖させる等の形で本人たちの意向に反して集めるケースが数多く、更に、官憲等が直接これに加担する等のケースも見られた。」と、ここまで書いております。それはなぜですか。

平林外政審議室長 平成五年八月の調査結果におきましては、個々の出典とか参考にした文献、証言等を個別に言及しておりません。実態として、今まで申し上げましたように、政府の発見した資料の中には強制連行を直接示す記述は見当たらなかったのでございますが、その他各種の証言集における記述でございますとか、韓国における証言聴取とか、その他種々総合的にやった調査の結果に基づきまして全体として判断した結果、一定の強制性を認めた上であのような文言になったということでございます。

小山議員 全体としてというのでは本当によろしくない。(中略)ここに報告書の写しを持っております。私がここに持っておりますので、どれがどれで、どれが公開されてどれが非公開なのか、明らかにしてください。

平林外政審議室長 今、先生のお持ちの資料の中には、日本の関係省庁、それから国立国会図書館、アメリカの国立公文書館等のほかに、関係者からの聞き取り先、あるいは参考としたその他の国の内外の文書及び出版物が並べられておると思うんですが、このうち公開していないものは関係者からの聞き取りだけでございまして、その他はすべて公開をしている次第でございます。

小山議員 参考とした国内外の文書は全部公開でしょうか。

平林外政審議室長 原則として、今おっしゃったとおりでございますが、韓国の太平洋戦争犠牲者遺族会というのがございますが、ここの資料だけは内部資料だということで渡されておりますので、これは例外的に非公開ということになっております。

小山議員 そうしますと、我が日本国の各行政機関、それから国立国会図書館、国立公文書館、そして米国国立公文書館から出たものは全部公開されている。そこには強制連行を直接示す資料はなかったということが確認された。
そうすると、残りは関係者からの聞き取り調査です。すなわち、元従軍慰安婦を中心とした関係者からの聞き取り調査、これは明らかにされていない。それから、参考文献の中に太平洋戦争犠牲者遺族会等韓国の遺族会が出した、まとめた元慰安婦の証言集、これが非公開ということですね。

平林外政審議室長 そのとおりでございます。

小山議員 その証言集の裏づけはとっておりますか。

平林外政審議室長 お答え申し上げます。個々の証言を裏づける調査を行ったかという御趣旨でございましたら、それは行っておりません。個々の方々、これは元従軍慰安婦もおりますし、元慰安婦もおりますし、それから軍人さんたちのあれもございますが、それの証言を得た上で個々の裏づけ調査をしたということはございません。

小山議員 そうしますと、公開されていない資料、そして個々の裏づけ調査をしていない資料で政府は平成五年八月四日の決定を行った、こういうことになりますか。

平林外政審議室長 結論としてそのとおりでございますが、全体を子細に検討して、総合的に判断した結果ということでございます。

小山議員 そういうことですから、当時この調査に当たった、政府の方針に携わった方々が今いろんなところで疑問を呈しておられる、こういうことだと思います。既に公表されているものでも研究者が、例えば秦郁彦千葉大教授だとか西岡力東京基督教大学助教授の詳細な調査、検証が行われていて、既に公にされている証言集等についてはほとんど信憑性がないということが立証されているわけであります。(中略)
 また、当時の外政審議室長も、今どこかの大使に行っていますが、「そのまま信ずるか否かと言われれば疑問はあります」と証言しております。さらにまた、聞き取り調査に行った当時の外政審議室の審議官田中耕太郎さんは、調査が終わった日にソウルでの記者会見で、証言をした慰安婦の方々の「記憶があいまいな部分もあり、証言の内容をいちいち詳細には詰めない。自然体でまるごと受けとめる」という記者会見をしたのも日本のマスコミにきっちり出ているわけであります。
 こうした経緯があるわけでございますけれども、やはりここで大きな疑問が残るわけでございまして、そうした資料をもとにああいう決定をしたんですかという疑問はまだまだ残るわけであります。

 以上の国会質疑・答弁によって、教科書に「従軍慰安婦」を記載する第一の根拠となっていた河野官房長官談話は全く権威を失ったといえる。
 「談話」のもととなった調査資料の全貌と、公開・非公開の別が明らかとなった。「政府が発見した資料の中には強制連行を示す記述は見出せなかった」と平林外政審議室長が繰り返し強調したのは、公開文書のことを指している。ということは、「強制連行」を認めた河野官房長官談話の根拠となったものは非公開のものに限られる。
 すなわち韓国の遺族会がまとめた元慰安婦の証言集、および元慰安婦を中心とした関係者からの聞き取り調査である。この非公開資料について、「その証言集の裏づけはとっておりますか」と小山議員が質問したところ、「それは行っておりません」という答弁であった。河野談話は、公開もできない、裏づけ調査もなされていない、極めて信憑性の低い証言のみを根拠にしてなされたものであると結論された。
 今後、私たちはすべての議論を、「慰安婦の強制連行を認めた河野談話は公開もできない、裏づけ調査もなされていない、極めて信憑性の低い証言のみを根拠にしてなされたものである」こと、かつ政府もそれを国会の場で公式に認めたという点から始めてゆくべきである。

■なぜ「強制連行」を認めたのか

 残された課題は、二つある。

 一つは、「河野談話」は非公開の、裏付け調査もしていない韓国の元慰安婦の証言に基づいている。現在の私たちの状況は譬えて言えば、証拠能力があるかどうかも分からない非公開の資料によって一方的に「性犯罪国家」と有罪宣告されてしまったようなものである。
 政府の公文書が無罪を証明している以上、裁判のやり直しをするべきであり、そのためには「談話」の決定打となった「非公開の証言」を政府はすべて公開し、専門家によって客観的、学問的に徹底的に検証させるべきである。

 もう一つは、小山議員も最後に指摘していたが、宮澤首相や河野官房長官(当時)はなぜ、裏付け調査もしていない不確かな証言に基づいて、私たち日本人すべてに「アジアの女性たちを軍・官憲が拉致・監禁して性奴隷とした」という汚名を着せるようなことをしたのか、ということだ。「慰安婦の境遇にあった人々にも同情を禁じ得ないが、いくら調査しても強制性を示す文書は発見できなかったし、元慰安婦の証言も裏付けがとれない以上、現段階では『強制性』を認めるわけにはいかない」と、なぜ明言することができなかったのか。

 この点について産経新聞(平成九年三月九日付)のインタビューの中で、当時、「河野談話」作成に直接関わった石原信雄元官房副長官はこう述べている。

 ――ではなぜ強制性を認めたのか。
「日本側としては、できれば文書とか日本側の証言者が欲しかったが、見つからない。加藤官房長官の談話には強制性の認定が入っていなかったが、韓国側はそれで納得せず、元慰安婦の名誉のため、強制性を認めるよう要請していた。そして、その証拠として元慰安婦の証言を聞くように求めてきたので、韓国で十六人に聞き取り調査をしたところ、『明らかに本人の意思に反して連れていかれた例があるのは否定できない』と担当者から報告を受けた。……」(中略)

 ――韓国側の要請は強かったのか。
「元慰安婦の名誉回復に相当、こだわっているのが外務省や在韓大使館を通じて分かっていた。ただ、彼女たちの話の内容はあらかじめ、多少は聞いていた。行って確認したということ。元慰安婦へのヒアリングを行うかどうか、意見調整に時間がかかったが、やはり(担当官を)韓国へ行かせると決断した。行くと決めた時点で、(強制性を認めるという)結論は、ある程度想定されていた」

 ――それが河野談話の裏付けとなったのか。
「日本側には証拠はないが、韓国の当事者はあると証言する。河野談話に『(慰安婦の募集、移送、管理などが)総じて本人たちの意思に反して行われた』とあるのは、両方の話を総体としてみれば、という意味。全体の状況から判断して、強制にあたるものはあると謝罪した。強制性を認めれば、問題は収まるという判断があった。これは在韓大使館などの意見を聞き、宮澤喜一首相の了解も得てのことだ」

 ――談話の中身を事前に韓国に通告したのか。
「談話そのものではないが、趣旨は発表直前に通告した。草案段階でも、外政審議室は強制性を認めるなどの焦点については、在日韓国大使館と連絡を取り合って作っていたと思う」

 ――韓国側が国家補償は要求しないかわり、日本は強制性を認めるとの取引があったとの見方もある。
「それはない。当時、両国間でお金の問題はなかった。(後略)」

 内閣官房副長官と言えば、単なる一官僚とはわけが違う。総理大臣を直接サポートする内閣の事務方の最高責任者である。そうした信憑性の高い証言から浮かび上がってくるのは、学問的な検証は二の次で、強制性を認めよと迫る韓国政府の圧力に屈してしまった日本政府の姿である。

 この石原元官房副長官の証言には幾つかの重大なポイントがあるが、整理すると次のようになる。
 いくら探しても日本側資料には強制性を認めるものは見つからなかった。韓国政府はあくまで強制性を認めるよう要請していた。
 そこで韓国政府は、強制性を認めさせるために、韓国政府が用意した元慰安婦の証言を聞くよう要請した。元慰安婦への聞き取り調査をするのは、強制性を認めるためであることを知りながら、日本政府は聞き取り調査を決定した。
 元慰安婦の証言を踏まえた河野談話の内容については、発表前に、外政審議室が、在日韓国大使館と連絡を取り合っていた。
 韓国政府の要請に応じて、元慰安婦への聞き取り調査を行い、強制性を認めれば(つまり日本が自らを性犯罪国家だと認めて謝罪すれば)、この問題は収まると、在韓大使館、宮澤首相、河野官房長官、谷野作太郎外政審議室長、田中耕太郎外政審議官、そして石原官房副長官(いずれも当時)は判断した。
 日本側が強制性を認めるかわりに、韓国側は補償を求めないというような密約・取引はなかった。日本側がたとえ「強制性」を認めても、韓国側がこれで元慰安婦への補償問題を決着させるかどうかは確認していない。(これでは、強制性を認めれば韓国政府は納得してくれるだろうという一方的な希望的観測だけで、あえて「強制性」を認めたことになり、「密約」説よりももっと始末が悪い。)

■韓国政府主導で作成された「河野談話」


 日本政府はあくまで強制性を認めるよう要求する韓国政府の要請に屈して、韓国政府が用意した元慰安婦の証言を聞きに出掛け(これをヤラセと呼ばずして何と呼ぼう)、その証言の裏付けもとらないまま、〈証言〉を唯一の根拠にして「強制性」を認めるような「談話」を外政審議室が在日韓国大使館と連絡を取り合いながら作成し、更に日本側はその談話の趣旨を事前に韓国政府に了解を求めた上で、発表した――。
 石原元官房長官の証言を総合すると、これが、「河野談話」の作成・発表経緯である。
 この証言は事実なのか。平成九年三月十八日、参議院予算委員会において、この石原証言の真偽を質した板垣正議員に対して、平林博外政審議室長はこう答えている。

「一言で申し上げれば、(河野談話は)韓国側と協議をしたり交渉したりというたぐいの性格のものではなく、事前に通報してできるだけポジティブ(肯定的)な反応が出るようにという働きかけをやったものというふうに伺っております。」

 つまり、河野談話の内容について韓国政府と協議はしなかったが、韓国側が強制性を認めさせるために準備した元慰安婦の証言に基づいて日本政府は「談話」を作成し、発表前にその趣旨を韓国政府に通報したが、それは、韓国政府に「ポジティブな」(肯定的な)対応をしてもらうためだったというのである。要するに形式的にはどうあれ、実質的に「河野談話」はまさに韓国政府主導によって作成されたと認めたに等しい。

 それではなぜ、歴史の真実をねじ曲げ、我が国を「性犯罪国家」に仕立てあげてまで、韓国政府の意向を受け入れなければならなかったのか。
 石原元官房副長官は「強制性を認めれば問題は収まるという判断があった」としているが、「強制性を認めれば問題を収める」という韓国政府の言質を正式にとったわけではない。要するに何ら確証のない希望的観測に基づいて、強制性を認めたわけで、その後の展開は憂慮した通り、問題をこじらせただけであった。

 軍や官憲による強制を認めた以上、政府は国家補償すべきだという主張に屈して、「アジア女性基金」などという訳の分からないものを作って実質的に補償に踏み切ったが、あくまで国家補償を求めるグループの反発を買い、両国関係は更にこじれ、いまや韓国政府の中にさえ元慰安婦への国家補償を求める声が出始めている。歴史の真実をねじ曲げ、ありもしない「強制性」を認めたツケが、歴史教科書ばかりでなく、両国関係にも廻ってきているのである。

 敢えて韓国政府の意向に全面的に屈して「強制性」を認めたのは何故か。石原元官房副長官が証言したように、「これで韓国政府が慰安婦問題を決着させてくれる」という確証のない希望的観測からだけであったのか。それとも「強制性」を認めなければ、我が国の存亡が脅かされる事態が起ったとでもいうのだろうか。
 かくなる上は、「河野談話」の最高責任者である宮澤元首相や河野元官房長官に質すしかあるまい。櫻井さんは、宮澤元首相に取材を申し入れ、日時も了承されていたが、直前になって「なにを話しても影響が大きいから今は語り得ない」とキャンセルされている。であるならば国会で、「河野談話」に関わった宮澤元首相ら政治家や外務官僚に対して証人喚問を行い、その責任を追及するべきである。

■失墜した国家行政の権威を回復するために


 それにしても国会での「慰安婦」論議を振り返って痛感させられるのは、国家行政の権威が著しく失墜していることである。教科書の権威の失墜と国家行政の権威の失墜は、当然のことながら連動している。
 政府が過去の官房長官談話の権威を守ろうとするのは当然であるし、教科書検定の権威を守ろうとするのも当然である。安易に間違いを認めることは出来ない。そんなことを安易に認めていては行政の連続性が断たれてしまうからである。一連の政府答弁は、概ねこの線から出ているものであろう。
 しかしながら、問題となっている河野官房長官談話や教科書検定は、行政の権威としての中身をかなしいほどに持っておらず、石原元官房長官の証言や片山、小山、板垣議員らの質問によってその中身の杜撰さばかりが明らかになり、その権威を守ろうとする政府の姿はまるで漫画になってしまうのである。「なかった」ことを「あった」と言った官房長官談話を「正しい」と主張しなければならない苦しさが、政府側答弁にはにじんでいる。

 しかし、もう取り繕うことはできまい。
 国会という国権の最高決定機関において、「政府資料には強制性を示す文書はなかった」「河野談話の根拠となったのは、韓国政府が用意した元慰安婦の証言であり、その証言は裏付けをとっていない」「韓国政府の用意した元慰安婦の証言によって強制性を認めた河野談話を、韓国政府が肯定的に受け止めてもらうように談話発表前に韓国政府に働きかけた(河野談話は韓国政府主導で決定した)」という新事実が次々と明るみに出てきている。

 残念ながら、石原元官房長官の証言や小山議員や板垣議員の質疑は産経新聞にしか掲載されていない(「河野談話」が裏付け調査もしていない韓国の元慰安婦の証言に基づいていることなどを、朝日、読売などは一切報じていない。自社の方針に合わない情報は一切報じない朝日らが「国民に知らせる権利」を主張しているのだから笑止である)。しかし、慰安婦問題に対する国民の関心の高さを思えば、真実はやがて国民すべての知るところになろう。

 一連の慰安婦論議の最後に登場した板垣議員の質問に対して、橋本首相(当時)はこう答え、「慰安婦」記述見直しの可能性に含みを持たせた。

「慰安婦というものがあったことを消す事はできないと思います。それを形容詞がつくのか、いわゆるという言葉がつくのか、子供たちの教育の中にそれを取り込む必要があるのかないのか、むしろある程度自らの専門分野を決めた上での一般教養に移すべきものなのか。そうした点で文部省も検定委員会も今まで十分お考えになってこられたと私は思います。しかしこういう問題は幾ら考えても、よりよいものがあるならば考え直す事を妨げるものではないと、私はそのように思います。」

 平成八年、「河野談話」に基づいて中学校歴史教科書に一斉に登場した「従軍慰安婦」だが、「河野談話」の根拠は無残にも崩れ去った。学術的根拠のない「従軍慰安婦」は、教科書の学術性を守るためにも即刻削除するべきだ。
 それが難しければ差し当たって次善の策として、「日本を含めどこの国にも戦時中、慰安婦が存在した。特に我が国では、軍や官憲が直接『慰安婦』を強制連行したという疑いをもたれたが、あらゆる政府資料を調査した結果、軍・官憲が強制連行したという事実は発見されなった」と、教科書に記述させるべきである。(初出、『祖国と青年』平成九年四月号)